ソーニャ・ハートネット『木曜日に生まれた子ども』
ようやく読み終わり、余韻が胸を包んでいるうちに感想を書こうと思う。
ソーニャ・ハートネット『木曜日に生まれた子ども』
ガーディアン賞を受賞した作品だそうだが、私はソーニャ・ハートネットを知るまで、この作品を知らなかった。
私がこの作家を知ったのはつい最近のことで、これも運命的なものなのだが、『銀のロバ』で知ったのだった。というのも、最近はもっぱら児童書ばかり読んでいて、それで、その日もいつものように、なんとなくこの本を手に取ったのだった。翻訳小説というものがあまり得意ではなく、読んでもまぁおもしろかったな、くらいのものにしか捉えないのだが、この作品は違った。訳者の訳がよかったのか、それともソーニャの力なのか、もっと読んでみたい、と思ってしまったのだ。
そうして、ソーニャ・ハートネットという作家を検索したのだが、どうやら『木曜日に生まれた子ども』という本が有名らしい。ならば読んでみようじゃないか、と手に取った次第である。
初めは『銀のロバ』ほど甘くいかなかった。近頃児童書ばかり読んでいたせいか、文字の詰まった本はなんとなく読みづらく、内容もいまいち頭に入ってはこなかった。
ところが、まぁ月並みではあるが、半分を過ぎるか過ぎないあたりで、どんどんと続きが気になり始めたのだった。
簡単にあらすじを言うと、主人公ハーパーの弟・ティンは、物心つく前から、穴を掘ることを得意としていた。そうしていつの間にか、穴を掘ることに夢中になり、家族から離れていってしまう。一方で、もともと裕福とは言えなかったハーパーとその家族に次々と災難や不幸が襲う。それは弟のティンも無関係ではなく、むしろこのティンによってもたらされたものもあった。どんどん崩壊していく家族と離れていく子どもたちの、決して明るい部分のない、ただ薄暗い様子が描かれている。
『木曜日に生まれた子ども』を読むにあたって、あらすじを調べた。
「BOOK」データベースでは
オーストラリアの開拓地で、厳しい自然を相手に暮らす一家。少女ハーパーが語る、不思議な能力を持つ弟ティンと彼に守られた家族の絆の物語。
と書かれている。正直これでは、どんな内容か分からないだろう、と読んだ後になって思う。ティンの不思議な能力と言っても、穴を掘る、ということだけだ。確かに、類を見ない設定だと思うが、それで何か起こっても、そこまで不思議な能力とは思えなかった。ましてや、それが物語に関わってくるとは。もちろん、この作品自体、ハーパーの目線で書かれた、ティンにまつわる話なのだから、関わってこないはずもないのだが、それでもどう繋がるのか、まったく想像していなかった。ラストの思わぬ展開に、私は見事に魅力されてしまった。
仄暗く重い話題なのに、どうしてこんなにするすると読めるのか、今となっても分からない。それがこの作家の偉大なところなのだろう。確かに読んでいて楽しいものではなかったかもしれない。ただ、この本を読み終わったあと「穴を掘り続けている」ティンのことが、どうしようもなく愛しくて、好きになってしまうに違いない。
- 作者: ソーニャハートネット,Sonya Hartnett,野沢佳織
- 出版社/メーカー: 主婦の友社
- 発売日: 2006/09/01
- メディア: 単行本
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