『ルリユール』村山早紀
大変長らくお待たせしました。
気付けば1ヶ月半ほどの時間が経っておりました。
久しぶりに素敵な本に出会えたので、早く紹介に移りますね。
村山早紀『ルリユール』(ポプラ文庫ピュアフル)
瑠璃は、不思議な洋館でクラウディアという謎めいた女性と出会う。彼女は、どんなに傷んだ本でも魔法のように直してしまうルリユール職人だった。
本を愛するひとたちの、美しく不思議な物語。
本への愛情と、美しさに溢れた物語。
ファンタジーなのだけれど、いいな、素敵だな、と思えるものがたくさんありました。
本を直すことに関しては、まだまだ素人で、クラウディアさんのようにはできないけれど、それくらい素敵に直せたら、素敵な本が作れたらいいなぁ。
みよ子さんの話が大好きで、考えるだけで泣いちゃうんだけど、きっと泥まみれの中、土まみれの中、大事に大事に写真を持ってたんだろうなあ。
大好きな本になりました。
文庫本で読んだけれど、調べてみたら、単行本のほうも素敵な本でした。ぜひ。
『九年目の魔法』ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ『九年目の魔法』(東京創元社)
何かがおかしい。
壁にかかった『火と毒人参』という写真も、よく読んだベッドの上のこの本も、覚えているのとは違っている。
まるで記憶が二重になっているみたい。
迷い込んだお屋敷のお葬式で出会った、背の高いリンさん。
年上なのになぜか仲良くなって、それから恐ろしいことが起きはじめた……。
なぜ、そんなリンさんのことを忘れてしまったんだろう?
『魔法使いハウル』で知られるダイアナ・ウィン・ジョーンズの作品。
個人的にはハウルよりおもしろかった。
ヒーロー!という感じのしない、ちょっと頼りなさげなリンさんがもう大好き。
「よくわからない」という評価を受けがちなようだが、個人的にはそこまででもない。
ちょっとよくわからない部分は確かにあるけど、最後までよくわからなかった、という物語でもない気がする。
でもできればもう一度、『タム・リン』と『詩人トーマス』を読んでからもう一回読みたいかな。
『オオカミの時間』三田村信行
日常に潜むさまざまな不思議や不条理を描いた短編12篇と中編2変遷を収録した作品。
表題作「オオカミの時間」と「最後の王様」が印象的だった。
アレックス・シアラーの『世界でたったひとりの子』が気になったので読んでみたい。
『ものがたりの家』吉田誠治
吉田誠治『ものがたりの家』(パイインターナショナル)
背景グラフィッカ・イラストレーターの吉田誠治氏の美獣設定集。
同人誌として発行された『ものがたりの家I・II』の決定版。
かねてより気になっていた本を読了。
イラスト集として楽しむもよし、練り上げられた設定を読んで楽しむもよし、作品解説やメイキングを楽しむもよし……と、いろんな楽しみ方ができる本。
いろんな家を見ているのもおもしろいし、家の形やトイレの変遷など、知識の入口としても最適。絵を描く人もそうでない人も、一冊あると楽しいと思います。
読んでいるとわくわくする。
『わたしが少女型ロボットだったころ』石川宏千花
わたしは人間じゃなくて、ロボットだった。
そのことを、わたしはすっかり忘れて生きてきた。
きっと、忘れたまま生活するようにプログラミングされていたんだと思う。
だけど、思いだしてしまった。
本当に突然、ふっと。
(本文より)
拒食症の話か、とは思ったし、症状の一部として現れる妄想みたいなものかなと最初は思ったけれど、本当の話でもあるように思う。
実際に自分がロボットだ、と思うから食べられなくなった、ということもそうだし、
本当に主人公の多鶴(たづる)は少女型ロボットなんだろうな、ということも。
現実でもありSFでもあるような、不思議な雰囲気の本だった。
ただ、たづが本当に幸せだったのは、理解してくれる人が近くにいて、そして何を言われてもたづのために動いてくれていたことだと思う。現実でも、そういう人がいるかいないかでかなり変わってくると思う。
『とざされた時間のかなた』ロイス・ダンカン
あっという間に1週間が経ってしまう。
気付けば週末も終わるということがしばしばある。
ロイス・ダンカン『とざされた時間のかなた』(評論社)
母さんが死んで1年も経たないのに、父さんが再婚した。しかもとびきりの南部美人と。
美人の再婚相手と不思議な雰囲気を持つ2人の連れ子たち。『風と共に去りぬ』を思わせる屋敷で、17歳の少女ノアが探り当てた驚愕の真実とは。
不気味で少し悲しい物語。
正直、最初のほうを読んだらかなりストーリーは読めてしまうのだけど、それでも父親に何を言っても信じてもらえないもどかしさだとか、失望、ノアの身に迫る恐怖や、屋敷と新しい家族の不気味さの描写が素晴らしい。
最後の展開はちょっと衝撃的で、少し悲しさが残るのが良い。
翻訳小説って、どれも独特の読みづらさがあると思ってるのだけど、この作品は訳がうまくて、すいすい読み進めてしまった。
海外小説は読みづらくて……と思っている人にもおすすめの作品。
『旅する練習』乗代雄介
ちょうど読み終わって、胸に迫るものがあったので、今回はおすすめとは少し違うかもしれないが載せる。
乗代雄介『旅する練習』(講談社)
サッカー少女と小説家の叔父。
2020年のコロナ禍で予定がなくなった春休み、千葉から鹿島アントラーズの本拠地までの徒歩の旅を描く。
第164回芥川賞候補作。
数ある文学賞の中で芥川賞を獲るような作品を最も読んでいない自信があるのだが、近隣図書館の方が「2021年で一番心をかき乱された本になる気がする」と仰っていたのを見て気になり読んだ。
まぁ芥川賞候補作になる通り文章も硬く、読みづらいは読みづらいが、最後のページで確かに心を乱される。
後半三分の一ほどにあった展開はそういうことかと、文章構成のうまさにも唸った。
表紙の装画はカワウだろうか。
p118「本当は運命なんて考えることなく見たものを書き留めたいのに、私の怠惰がそれを許さない。心が動かなければ書き始めることはできない。そのくせ、感動を忍耐しなければ書くことはままならない。」
この文章が良かった。
ジーコの話とみどりさんの出てくるところは読んでいて楽しかった。
おすすめというよりも、これを読んで誰かと語らいたい作品だと思う。