幽霊船は海で踊る

一週間に一度、おすすめ本の投稿をしています。

『ベランダに手をって』葉山エミ

 

最近あまり本が読めていない。読んでいることには読んでいるが、慣れないファンタジーを読んでいるせいで進みが遅い。おもしろいのだけど。

そういうわけで、おすすめできる本に限りがあるのだけど、そうこうしているうちに2週間が過ぎたので、これはいけないと思った次第です。

 

 

ベランダに手をふって (文学の扉)

ベランダに手をふって (文学の扉)

  • 作者:葉山 エミ
  • 発売日: 2021/01/27
  • メディア: 単行本
 

 

葉山エミ『ベランダに手をふって』(講談社

 

お父さんが亡くなってから、毎日をベランダにいるお母さんに手をふって登校していた輝。しかしあるとき、同級生にそれを見られてからかわれてしまう。輝とお母さんの大切な習慣だが、五年生にもなって、といった思いは抱えていた。

その頃、同じように父親を亡くした同級生の香帆と仲良くなる。香帆は運動会での二人三脚に母と二人で参加し、再出発しようと強い思いをかけていたが……。

 

同級生の無邪気な残酷さや、子どもたちの生活、人のあたたかさが優しい文体で伝わってくる。父親を亡くした香帆に対する輝の「ものすごく暗いトンネルの中にいたんだろうな」という言葉の、飾り気なく、同情でもなく、ちゃちな同意でもない、同じように父親を亡くした輝だからこその表現に胸にしみた。

 

 

 

そういえば、本屋大賞が発表されましたね。

今回は以前ブログでも紹介した『お探し物は図書室まで』しか読めてないけれど、とてもおすすめだし、翻訳部門の『ザリガニの鳴くところ』もおすすめなのでぜひ読んでほしい。

本屋大賞作品で読みたいのは『52ヘルツのクジラたち』『滅びの前のシャングリラ』『自転しながら公転する』あたりかな。

 

それから、まだ読んでる途中だけど、おもしろいので紹介を。

ダイアナ・ウィン・ジョーンズ『九年目の魔法』(東京創元社)

 

九年目の魔法 上 (Sogen bookland)

九年目の魔法 上 (Sogen bookland)

 

 

突然ファンタジー作品が読みたくなって、とりあえず先に『魔法使いハウルと火の悪魔』を読んだのだけど、私には『九年目の魔法』のほうが合ってるみたい。現実と非現実があやふやになっていく感じや、何よりリンさんがなんとも素敵で、読んでいると自分がポーリィになったみたいでワクワクドキドキする。読了したら改めておすすめしたい。

『わたしの美しい庭』『流浪の月』凪良ゆう

 

最近更新がまちまちになってしまって申し訳ない。

 

今回の本は、ずっとおすすめしたくて仕方なかったんだけど、どうしても言葉にならなくて紹介できなかった本。

 

 

 

流浪の月

流浪の月

 

 

去年の本屋大賞受賞作品で、以前にも紹介した作品。いわずもがな人気の話題作。

 

こんなニュースが流れると、きっと私も嫌悪感を示してしまうだろう。それでも世界には、当事者にしか分かりえないことがあるし、彼らの目線で物事を見ると、もうそっとしておいてよ、ふたりでいるだけで呼吸が楽にできるんだから、と言いたくなる。

 

 

わたしの美しい庭

わたしの美しい庭

 

 

『流浪の月』の次に発表された作品。注目が集まる中、作者の力がしっかりと発揮された作品。

 

不思議な関係性を描くのが上手い。一言では説明できないんだけれども、きっとどこかに存在しているだろうその関係と、周りの歪な目を描くのが上手い。

そんな関係にある人、周りにいるかもしれない人、その人だけじゃなくて、なんでもないんだけどなんだか生きるのが苦しい人にもそっと寄り添ってくれる作品。

 

 

最近お気に入りの作者は?と聞かれたら間違いなく凪良ゆうが挙がる。うまく言葉にできないので伝わらないと思うけれど、読みやすい作品なので、ぜひ手に取ってほしい。

『うちゅうじんはいない!?』ジョン・エイジー/『いわしくん』菅原たくや

 

先週分のおすすめ本のアップが飛んでしまい申し訳ありませんでした。

実はフリーマーケットの参加を予定していて、その準備に奔走していたのですが、あいにくの雨で中止となっていまいました。

また来月にお知らせできると思うので、乞うご期待ください。

今週はお詫びとして絵本の詰め合わせです。

 

 

うちゅうじんはいない!?

うちゅうじんはいない!?

 

 

ジョン・エイジー『うちゅうじんはいない!?』(フレーベル館

 

宇宙人はいると信じてはるか遠くまでやってきた主人公。はたして宇宙人はいるのかいないのか……。

 

読んでいるとソワソワもどかしくなる絵本。案外近くにあるのに、探し物が見つからないことってありますよね。でも主人公的には新しい発見があったからいいのかも?

絵のタッチもかわいくて、好きな絵本の一冊です。

 

いわしくん

いわしくん

 

 

菅原たくや『いわしくん』(文化出版局

 

海で仲間と一緒に泳いでいたいわしくん。捕まえられて、魚屋さんで売られて、夕食になり、男の子に食べられます。いわしくんを食べた男の子は……。

 

この絵本は以前、このおすすめの形態になる前におすすめした本。何度読んでも胸がぎゅっとなるくらい、最後のページは印象的です。短いお話ですが「命を食べて生きている」というテーマ以上のものを受け取れる素敵な絵本です。

『教室に並んだ背表紙』相沢沙呼


たまたま見た中島敦の全集の中に「鏡花氏の文章」というのがあって、「なんぞや」と思い見てみると
「大威張りで言いたいが、鏡花氏の文章を知らないのは不幸であり、知ることは幸である。鏡花氏は言葉の魔術師、感情装飾の幻術者であり、氏の芸術は麻酔剤か阿片のようなものだ」(大意)
といったことが書かれており、こちらも大威張りで「よくご存知で。ありがとう」と心の中で自慢しました。ただの鏡花さん好きの分際ですが。

 

 

教室に並んだ背表紙 (集英社文芸単行本)

教室に並んだ背表紙 (集英社文芸単行本)

 

 

相沢沙呼『教室に並んだ背表紙』(集英社

小説すばる』掲載に書き下ろしを加えて単行本化。

「わたしは欠陥品なのかもしれない―」
中学校の図書室を舞台に、クラスへの違和感や友人関係、未来への不安、劣等感など、思春期の心模様を繊細に描く全6編の短編集。

図書室に配属されたばかりのしおり先生を中心に、少しずつ本と本が、人と人が繋がっていく物語。なにか秘密があるんだろうなと思っていたけれど、最後の短編にまんまとやられた。
明日のことが不安な日もあった。消えてしまいたいときもあった。いいことばっかりじゃなかった。今も未来に不安がないわけじゃないけれど、それでもあの頃は、楽しかった、それでよかったと思えるようになったな。そう思わせてくれた作品だった。

『少女は花の肌をむく』朝比奈あすか

 

早いものでもう3月ですね。我が愛犬と運命的な出会いをしてから、2年の月日が経とうとしています。ずいぶん大きくなりました。いつまでも元気でいてほしいものです。

 

少女は花の肌をむく

少女は花の肌をむく

 

 朝比奈あすか『少女は花の肌をむく』(中央公論新社

 

十一歳。”性”が目覚め始めるとき。

美しく自由奔放な野々花。聡明だが”輪”から外れるのが怖い阿佐。あまりにも繊細な感性を持つ咲。

三人の「少女たち」が、異性経験、友人関係、美醜への自信をそれぞれに胸にかかえながら、二十歳へと成長する。

「少女」からの脱皮。”性と生”を彷徨。子どもから大人になる瞬間の火花のような煌めきと揺らぎ。切なく紡がれる物語。

 

少女の世界は残酷だ。学校がすべてで、所属するグループがないと終わり。その勝負に属さない子もいるけれど、その子らは大抵強い武器を持っているか、何も持っていないか。持たない子はもちろん、標的にされる。少女たちの世界はいつだって残酷だった。

そんなやりとりは、かつての「少女」たちには誰でも経験があるんじゃなかろうか。

この作品は、そんな繊細な心情がよく描かれた作品で、読んでいても胸がちりちりと痛んだ。

『ハッピーノート』草野たき

 

アルコール消毒をする回数も手を洗う回数もぐっと増えたことで、手あれが例年よりもひどい。

ハンドクリームを何本買えば済むのか。クリーム塗っても気休めくらいにしかならないし。

せめて乾燥がマシになればいいのにね。

 

 

ハッピーノート (福音館文庫 物語)

ハッピーノート (福音館文庫 物語)

  • 作者:草野 たき
  • 発売日: 2012/11/10
  • メディア: 単行本
 

 

草野たき『ハッピーノート』(福音館)

 

聡子は6年生。友だちの前でなかなか思うように自分を出せない。そんな状況から逃れようと、私立の中学に入るため塾に入る。

塾が終わってから、密かに思いを寄せる霧島くんと、ミスタードーナツで自習をするのがささやかな幸せだった。夏期講習の間、お互いの苦手分野を克服する「ハッピーノート」をつくって、一緒に勉強するが……。

わがままでも人のいいなりでもない、自分のペースをつくっていくひと夏の物語。

 

最初に読んだのは、聡子と同じ6年生の頃だと思う。同じように、ちょうど塾に入って、中学受験をしようとしていた頃で、両親が薦めてくれた本だった。

ミスタードーナツは知っていたけれど「オールドファッション」を知らなくて、どんなのだろう、と食べてみたり、お気に入りのペンでノートに書いたりと、随分聡子の真似をした。

先日、久しぶりにもう一度読むと、当時の思い出が蘇ってきて楽しかった。

友だちに嫌われないように、その子の思うような自分を演じたり、親とぎくしゃくしたり、思春期の頃の複雑な世界と思いを描いた、今なお色褪せない作品。

 

『10の奇妙な話』ミック・ジャクソン


ようやく春が来たと思ったのに、この数日で真冬に逆戻り。
吹雪の中の出勤はつらいものですね。

 

 

10の奇妙な話

10の奇妙な話

 

 

ミック・ジャクソン『10の奇妙な話』創元社

命を助けた若者に奇怪な風貌を罵倒され、心が壊れてしまった老姉妹。博物館の標本の蝶を蘇らせようと、”蝶の修理屋”を志そうとする少年。教師が宇宙人にさらわれたと信じ、市役所に調査を依頼するこどもたち。
日常と非日常の境界線がおぼろげになる、奇妙な短編集。

この短編集の中でも「蝶の修理屋」が一番のお気に入り。
父親の影響で通うようになった骨董屋の退廃的な雰囲気や、博物館に展示された色とりどりの蝶の美しさと、それが殺したものによる芸術であるという小さな狂気。
「蝶を修理する」という表現がなんとも奇妙でわくわくする作品。
同短編集に収録されている「ピアース姉妹」とともに短編映画になっている。改変され、終わりのブラックさがないのが残念だが、映像のほうもおもしろいのでぜひ。

 

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